敬語は古文の読解において非常に重要です。
なぜなら、主語や目的語の省略が多い古文では、敬語が省略を補うカギになるからです。
しかし、文法や古文単語で手一杯で敬語の勉強まで手が回らないという人は多いです。そのため、敬語をマスターすると古文の読解で他の人と差を付けることができます。
そこで今回は、古文敬語の基礎、問題で問われるポイント、オススメ勉強法と参考書を紹介します。受験当日まで役立つ敬語一覧表も載せているので、ぜひ活用してください。
この記事を読んでわかること
- 尊敬語・丁寧語・謙譲語を区別して見分ける方法
- 古文は敬語が頻出って聞くけど、試験ではどんな問題が出されるのか
- 古文敬語の効率的な勉強法・何を暗記すればいいのか
古文助動詞の勉強法を解説した記事はこちらから。ぜひご覧ください。
古文敬語の基礎を押さえる上で大切な2点
【ポイント1】本動詞と補助動詞
本動詞と補助動詞はそれぞれ敬語の種類です。
本動詞は本来の動詞の意味を持っており、それ単体で動詞として使う動詞のことです。
対して補助動詞は、本来の動詞の意味を失っており、他の動詞とセットで使われます。補助動詞は敬意だけを表します。
例えば、以下に「給ふ」を使った2つの文があります。
- 「御衣ぬぎて給ふ」(御召物を脱いでお与えになる)
- 「帝泣き給ふ」 (帝がお泣きなさる)
1つ目の文の「給ふ」は本動詞、2つ目の「給ふ」は補助動詞です。
この「給ふ」は「お与えになる」と訳せ、「与える」という本来の動詞の意味をもっています。
2つ目の「給ふ」は「お~なさる」と訳せます。この用法で、「給ふ」には、なにかをするという動詞としての具体的な意味はありません。「泣く」という動詞に敬意を付加する用法で使われています。
本動詞と補助動詞は、その語の前に動詞があるかどうかで見分けることができます。直前に動詞があれば補助動詞、なければ本動詞です。
2つの動詞が並んだ状態で現代語訳をすると訳が変になってしまうので、訳に違和感を感じたら補助動詞の可能性を考えてみましょう。
【ポイント2】尊敬/謙譲/丁寧語
敬語は尊敬語・謙譲語・丁寧語の3つに分類できます。
敬語の分類は、敬意の方向を理解するために重要です。
「誰からの敬意」なのかは、地の文か会話文かで決まります。
一方、「誰への敬意」かは尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれなのかで決まります。
敬意の方向(地の文) | 敬意の方向(会話文) | |
---|---|---|
尊敬語 | 作者→動作をする人 | 話し手→動作をする人 |
謙譲語 | 作者→動作を受ける人 | 話し手→動作を受ける人 |
丁寧語 | 作者→読者 | 話し手→聞き手 |
古文は主語や目的語が省略されがちなので、誰への敬意なのかを理解して、省略されている部分を補って読んでいくことが重要です。
これ一枚で全て網羅!古文助動詞の一覧表公開
・尊敬語(本動詞としての用法のみの敬語)
語 | みまそがり | のたぶ | のたまふ | のたまわす | まゐる | たてまつる | 御覧ず | みそなはす | おもほす | おぼす | おぼしめす | 大殿ごもる |
活用 | ラ変 | 四段 | 四段 | 下二段 | 四段 | 四段 | サ変 | 四段 | 四段 | 四段 | 四段 | 四段 |
意味 | いらっしゃる・おいでになる | おっしゃる | おっしゃる | おっしゃる | お聞きになる・おっしゃる | お聞きになる・召し上がる | ご覧になる | なさる | お思いになる | お思いになる | お思いになる | おやすみになる |
・尊敬語(本動詞と補助動詞の用法がある敬語)
語 | ます | まします | います | いますがり | おはす | おはします | おはさふ | おはしまさふ | おはさうず | たぶ | たまふ | めす | 遊ばす |
活用 | 四段 | 四段 | サ変 | ラ変 | サ変 | 四段 | 四段 | 四段 | サ変 | 四段 | 四段 | 四段 | 四段 |
本動詞としての意味 | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる・おいでになる | いらっしゃる | いらっしゃる | いらっしゃる | くださる・お与えになる | くださる・お与えになる | めしあがる・お召しになる | なさる |
補助動詞としての意味 | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる・~でおいでになる | ~ていらっしゃる | ~ていらっしゃる | ~ていらっしゃる | お~になる・お~なさる | お~になる・お~なさる | お~になる・お~なさる | お~になる |
・謙譲語(本動詞としての用法のみの敬語)
語 | まゐる | まうづ | まかる | まかづ | さぶらふ | さうらふ | はべり | まつる | つかまつる | たまはる | うけたまはる | まうさす | いたす | いただく | 存ず |
活用 | 四段 | 下二段 | 四段 | 下二段 | 四段 | 四段 | ラ変 | 四段 | 四段 | 四段 | 四段 | 下二段 | 四段 | 四段 | サ変 |
意味 | うかがう・参上する | 参詣する | 退出する | 退出する | お仕えする・お控え申す | お仕えする・お控え申す | お仕えする・お控え申す | お仕えする | お仕えする | いただく | いただく | 申し上げる | いたします | いただく | 存じます |
・謙譲語(本動詞と補助動詞の用法がある敬語)
語 | まゐらす | たまふ | まうす | きこゆ | きこえさす | たてまつる |
活用 | 下二段 | 下二段 | 四段 | 下二段 | 下二段 | 四段 |
本動詞としての意味 | 献上する・さしあげる | 下二段 | 四段 | 下二段 | 下二段 | 献上する・さしあげる |
補助動詞としての意味 | ~てさしあげる・お~申し上げる | ~させていただきます | お~申し上げる・お~する・お~いたす | お~申し上げる・お~する・お~いたす | お~申し上げる・お~する・お~いたす | お~申し上げる・お~する |
・丁寧語
語 | さぶらふ | さうらふ | はべり |
活用 | 四段 | 四段 | ラ変 |
本動詞としての意味 | あります・おります・ございます | あります・おります・ございます | あります・おります・ございます |
補助動詞としての意味 | ~ます・~でございます | ~ます・~でございます | ~ます・~でございます |
古文敬語の最適な勉強法を京大生が3つ解説
全てのキホンである日本語訳を覚える
敬語に限らず、古文の読解は現代語訳を覚えているかどうかが最重要です。
ある程度現代語訳ができれば、読解問題の答えもおのずと分かるからです。
センター試験・共通テストでは古文の最初の3問は現代語訳です。敬語の訳も必ず問われます。どのように問われるのか、実際に解いてみましょう。
問「ゆかしくおぼしめして」の現代語訳を答えよ。
出典:令和2年度センター試験
- ①いぶかしくお思いになって
- ②もどかしくお思い申し上げて
- ③知りたくお思いになって
- ④縁起が悪いとお思いになって
- ⑤会いたいとお思い申し上げて
この問題では「ゆかし」の訳と「おぼしめす」の訳ができるか問われています。
今回は敬語に焦点を当ててみてみましょう。
「おぼしめす」は「おぼす」+「めす」で構成されています。「おぼす」という動詞が直前にあるので、今回「めす」は補助動詞であると判断できますね。「おぼす」は「お思いになる」という意味の尊敬語なので、後半の訳は「お思いになって」が正解です。
「ゆかし」は「見たい・聞きたい・こころ惹かれる」というプラスの感情の意味をもつので、後半の訳が正しい3つのうち、「知りたくお思いになって」が正解だと分かります。
敬意の方向に注意する
敬意の方向はテストや入試でよく出題されますが、ポイントを押さえていれば難しい問題ではありません。敬意の方向は、文の種類(地の文・会話文)と敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)で決まります。
例題で確認していきましょう。
問 「帝、宰相に御召物を奉り給ふ。」から敬語を抜き出し、誰から誰への敬意か答えよ。
この文では「奉る」と「給ふ」の2種類の敬語が使われています。
この文は地の文なので、両方とも作者からの敬意です。
「奉る」は謙譲語なので、動作を受ける人に敬意が払われています。今回は帝が宰相に服をあげているので、動作の受け手は宰相になります。よって、「奉る」の敬意の方向は作者→宰相です。
次に、「給ふ」は尊敬語なので動作をする人、つまり文の主語への敬意を表します。
よって、敬意の方向は作者→帝です。
このように、二方面への敬意は問題にされやすいので注意しましょう。敬意の方向は複雑そうに見えますが、ちゃんとルールに則って考えれば難しくはありません。前述した、敬意の方向一覧表をしっかり覚えましょう。
特殊な敬語用法を押さえる
古文には、現代語と異なる特殊な敬語の使い方や、特定の相手にしか使われない敬語が存在します。これらの敬語を知っていると、省略されている主語の特定が容易にできるので、しっかり押さえておきましょう。
- 二重敬語(最高敬語)
- 絶対敬語
- 自敬表現
①二重敬語(最高敬語)
二重敬語は、天皇や中宮、右大臣、左大臣などの身分の高い人に、最大限の敬意を表すときに用いられます。二重敬語は、尊敬語を二つ重ね合わせて作られます。
よく使われるものは以下の3つです。
- 尊敬の助動詞「す・さす・しむ」+尊敬の補助動詞「給ふ」
- 尊敬の本動詞+尊敬の補助動詞「給ふ」
- 尊敬の本動詞+尊敬の助動詞「る・らる」
例: 帝が○○と仰せ給ふ
(訳:帝が○○とおっしゃられる)
②絶対敬語
絶対敬語は、特定の相手にしか用いられない敬語のことです。絶対敬語は敬意を表す相手が決まっているので、文章読解のポイントになります。
覚えなければならない絶対敬語は「奏す」と「啓す」の二つだけです。
- 「奏す」:天皇に申し上げるという意味の謙譲語
- 「啓す」:中宮・東宮に申し上げるという意味の謙譲語
問 「かぐや姫、答えて奏す」(竹取物語)を目的語を補って現代語訳せよ。
この問題のカギは「奏す」が天皇に敬意を表す絶対敬語であることです。
よって、申し上げた相手は天皇なので、訳は「かぐや姫は、答えて天皇に申し上げる」となります。
③自敬表現
自敬表現は、天皇や上皇などの最も身分の高い人が自分自身への敬意を表す表現です。自分の動作に尊敬語を用いたり、相手の動作に謙譲語を用いることで自分自身を高めます。
問 「帝、『なんぢ早く参れ』と仰せ給ふ。」の「参れ」の敬意の方向を答えよ。
参れは会話文中なので、敬意を発している人は帝です。さらに、「参る」は謙譲語なので、敬意を受け取る相手も帝になります。
よって、敬意の方向は帝→帝です。これが自敬表現です。
古文敬語で点を稼ぐ!勉強法紹介
ある程度の古文敬語を暗記することは必須
古文敬語の問題を解くには、敬語の暗記が必要です。
例えば、敬意の方向を聞かれたときに、その敬語の種類(尊敬語なのか謙譲語なのか)が分かっていないと、誰への敬意かは判断できません。また、敬語の現代語訳を覚えていないと、読解問題や訳の問題には対応できません。
このように古文敬語では、敬語の種類と現代語訳の暗記が必須事項になっています。
しかし、敬語の一覧表をすべて完璧にしなければと気負う必要はありません。古文敬語は頻出の敬語、紛らわしい敬語をマスターすれば解ける問題がほとんどです。
頻出の敬語は読解の練習を積むときに自然と覚えられるので、まずは紛らわしい敬語を覚えていきましょう。
- 「思す」と「思しめす」
- 「聞しめす」と「聞こえさす」
- 「まゐる」と「まうづ」と「まかる」と「まかづ」
- 謙譲語の「給ふ」と尊敬語の「給ふ」
これは紛らわしい敬語としてよくあげられるものです。特に4つ目の「給ふ」の識別は頻出問題でもあります。
他にも自分が間違いやすいと思う敬語を優先的に覚えていきましょう。
紛らわしい敬語を覚えたら、次は謙譲の補助動詞6つも覚えきることがオススメです。謙譲の補助動詞は数が少ないうえに頻出なので、覚えておくことでコスパよく点数がとれます。
以上のように、ある程度は暗記が必要な古文敬語ですが、覚え方としては語呂合わせよりも、例文で覚えることがオススメです。
なぜなら、例文で覚えると、敬語の暗記ができるだけでなく、実際に文中でどのように敬語が使われているか分かるため、読解力の養成にもつながるからです。
例えば、源氏物語の冒頭のフレーズには敬語が二つでてきます。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に」
(訳:いつの帝の時代であったか、女御や更衣が大勢お仕え申し上げなさっていた際に)
源氏物語
「候ふ」と「給ふ」が連続していることから、「候ふ」は「お仕えする」という意味の本動詞の謙譲語、「給ふ」は四段活用になっていることから尊敬語の補助動詞であると分かります。
訳と対応させて覚えることで、二つの動詞の種類と意味、四段活用の「給ふ」は尊敬語であることまで覚えられますね。
以上の2ステップで、敬語の種類と現代語訳の暗記を暗記しましょう。
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『古文単語ゴロゴ』は、とにかく楽しく勉強がしたい、古文が嫌いで手に付かないという方にオススメです。語呂合わせで単語を覚えることに特化しており、暗記が苦手な方でもすらすら古文単語を覚えることができます。最難関大学までこれ1冊で対応できるので、どのレベル帯の受験生にもオススメです。
まとめ まずは、古文敬語の現代語訳を覚えよう
今回は、古文敬語の基礎知識・試験で問われるポイント・効率的な学習法とオススメ参考書の紹介をしました。
この記事のポイント
- 敬語は古文の省略を見抜くカギ
- 古文敬語の基礎は「本動詞/補助動詞」「尊敬語/謙譲語/丁寧語」の分類
- 日本語訳、敬意の方向は試験で頻出
- 敬意の方向は敬語の種類と文の種類で分かる
- 古文敬語では暗記は必須→例文を使って覚えよう
敬語は古文の読解に必須です。単語や文法より学ぶ量は少ないですが、重要度は同じくらい高いです。
試験にでるポイントを押さえることで、周りの人と差をつけることができます。
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